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東京地方裁判所 昭和56年(モ)17545号 決定

原告

ニューピス・ホンコン・リミテッド

右代表者

王増祥

右訴訟代理人

水田耕一

右訴訟復代理人

中島敏

被告

有田正

右訴訟代理人

矢吹輝夫

河鰭誠貴

遠藤誠

丸島俊介

右当事者間の昭和五五年(ワ)第七九一二号取締役の違法行為差止請求事件につき、原告から文書提出命令の申立てがあつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件申立てを却下する。

理由

原告の本件申立ての趣旨は、「被告に対し別紙文書目録記載の文書を提出すべき旨の命令を求める。」というにあり、その理由の要旨は、「被告は、昭和五五年(ワ)第七九一二号取締役の違法行為差止請求事件(以下「本件訴訟」という。)の昭和五六年七月三〇日午前一〇時の口頭弁論期日(第四回口頭弁論期日)に陳述した第四準備書面(昭和五六年七月二四日付)において、乙第一ないし第九号証を引用した(同準備書面五頁九行)が、被告が同口頭弁論期日に提出した右乙号各証中、乙第一号証の一、同号証の二の一ないし二六、第三号証の一の一ないし七、同号証の二の一ないし一一、第四号証の一の一ないし三、同号証の二の一ないし一二、第五号証の一、二、第六号証の一の一ないし五、同号証の二の一ないし七、第七号証の一ないし四、第八号証の二の一ないし五及び第九号証の三の一ないし一一(以下「本件乙号各証」という。)は、いずれも文書の一部の抜粋であつて、その全体ではない。いやしくも文書を書証として提出する以上、文書としての独立性、完結性を有するものを提出すべきものであるが、被告が抜粋、提出した部分は、独立性、完結性を有するものとは認められない。したがって、被告は、民事訴訟法三一二条一号により当該文書全体の提出義務を負うものというべく、原告は、その提出を申し立てる。」というにあり、これに対して被告は、主文同旨の決定を求めたが、その主張の要旨は、「被告が原告主張の準備書面において引用したのは、本件乙号各証であり、そのうち、乙第一号証の一は一個の文書の全部であつて一部ではなく、その余は、いずれも文書の一部であつて、文書全体ではない。したがつて、被告としては、本件乙号各証を既に提出ずみなのであるから、それ以外に引用文書として提出義務を負う文書は存在しない。仮に、文書の一部を書証として提出する場合は文書全体との関連が明らかでなければならないと解する立場をとつたとしても、右乙号各証は、そのすべてにつき、文書の表題、冒頭、末尾、日付、作成者名簿等の記載が含まれているので文書全体との関連性は明らかであり、また、別紙説明書記載のとおり、それぞれに文書作成者の意思、思想内容が明確に理解されるものである。したがつて、被告には本件乙号各証以外の部分の提出義務はないので、申立却下の決定を求める。」というにある。

よつて検討するに、一件記録によれば、次の事実を認めることができる。すなわち、本件訴訟の第四回口頭弁論期日(昭和五六年七月三〇日午前一〇時)に被告が陳述した被告の第四回準備書面(昭和五六年七月二四日付)の四頁九行目から五頁九行にかけて、

「第二 本件ショッピング・センターの建設が、正に本件大宮土地の全体的・総合的、有機的な利用計画の下で進められていることについて

一  本件ショッピング・センター(以下「S・C」という。)の決定については、当然のことながら、本件大宮土地全体の長期的・総合的・有機的計画のもとに、きめられてきたのである。

すなわち、もともと本件大宮土地は、大宮製作所、大宮製糸所、大宮セーター工場、大宮靴下工場等の敷地として利用されていたところ、昭和四五年頃から、その後の長期的利用計画の検討をはじめ、昭和四六年三月には、資産開発プロジェクト・チームを編成し、その有効活用について鋭意検討を重ねてきた(乙第一号証ないし第九号証)。」

との記述があること、被告は同口頭弁論期日において乙号証を提出したが、本件乙号各証は乙第一号証の一を除いていずれも一個の文書の一部であり、当該文書の全体ではないことがいずれも記録上明らかに認められる。

右事実によれば、被告は、本件訴訟において本件乙号各証を引用したものというべきであるが、被告が引用したのは、前記準備書面が陳述された当該口頭弁論期日に提出された本件乙号各証、すなわち、乙第一号証の一を除けば、特定の文書の特定の部分であり、当該文書の全体でないことは明らかである。そして、民事訴訟手続において文書の一部を書証として提出することが許されることは、民事訴訟法にこれを禁ずる規定がなく、かえつて、商法三五条のように、文書の一部の提出命令を認める規定があることからも明らかであるから、乙第一号証の一を除く本件乙号各証が、当該文書の他の部分と一体不可分であるとか、あるいはこれと一緒でなければ意味内容が不明で証拠として採用できないものであるとか、ことさら裁判所の判断を誤らせるような抜粋がされているのであれば格別、そうでない限り、被告は引用した本件乙号各証以外の文書部分の提出義務は負わないものというべきである。そして、本件乙号各証が被告主張のとおり、特定の部分として可分であり、文書全体との関連性も明瞭で、それ自体として意味内容も完結的で理解できるものであることは記録上明らかであり、抜粋の仕方がことさら裁判所の判断を誤らせるものであることを窺わせる資料も存しない。

よつて、原告の本件申立は、乙第一号証の一については、当該文書の全部が書証として提出されており、その余の本件乙号各証については、民事訴訟法三一二条一号のいわゆる引用文書としては提出義務が認められないから、いずれにしても、理由がないのでこれを却下することとして、主文のとおり決定する。

(藤田耕三 竹中邦夫 福田剛久)

文書目録

文書の表示及び趣旨

1 乙第一号証の一

御見積書(株式会社日本エコノミストセンター作成)

2 乙第一号証の二の一ないし二六

大宮地区綜合開発のための企画・調査・提案報告書(作成者同右)

3 乙第三号証の一の一ないし七

仮称カタクラ“キャロンワールド”事業計画書・資料編その2・基本計画資料(三井建設株式会社作成)

4 乙第三号証の二の一ないし一一

仮称カタクラ“キャロンワールド”事業計画書・提案編(作成者同右)

5 乙第四号証の一の一ないし三

カタクラ・ジョイ・パーク事業計画書・片倉工業大宮工場跡地計画(竹中工務店開発計画本部作成)

6 乙第四号証の二の一ないし一二

カタクラ・ジョイ・パーク・片倉工業大宮工場跡地計画(作成者同右)

7 乙第五号証の一、二

大宮・片倉計画(第一案)(鉄建建設株式会社作成)

8 乙第六号証の一の一ないし五

片倉工業大宮工場跡地利用計画書(大成建設株式会社作成)

9 乙第六号証の二の一ないし七

片倉計画設計図書(作成者同右)

10 乙第七号証の一ないし四

片倉工業株式会社大宮工場跡地開発計画(フジタ工業株式会社作成)

11 乙第八号証の二の一ないし五

片倉工業大宮工場跡地の商業施設に関する提案書(株式会社ウラツブ作成)

12 乙第九号証の三の一ないし一一

片倉工業大宮工場跡地開発事業(仮称)基本構想説明書(C・O・R連合設計事務所作成)

説明書

本件乙号各証は、片倉工業が昭和四五年ころから本件大宮土地の長期的利用計画の検討をはじめ、その有効活用について種々の資料を蒐集し、鋭意検討を重ねてきた事実を立証する趣旨のもとに、被告において文書の必要な一部を証拠として提出したものである。

しかしてこれらはそれぞれ作成者の意思や調査、提案などにつき、その意味内容が分るものであり、右の要証事実の認定資料に供しうるものである。

すなわち、

1 乙第一号証の一は、見積書の内容のすべてであつて文書の一部ではない。

2 乙第一号証の二の一ないし二六について

右一は、作成年月及び作成者等を示す表紙であり、右二は内容の目次を示すもの

右三は、本件土地開発のイメージプランの段階で、開発用地の広さ、立地条件、森林の緑、開発用地の知名度など四つの要因を重視すべきことを指摘したもの

右四は、主なレジャーの投資と動員及び消費の推定を一覧表で明らかにしたもの

右五は、一九七〇年代に入ってから小売販売業界は、ユーザーの側では要求が多様化し、生産者、販売者の側ではチェーン化が進み、S・Cが予測されたことを示すもの

右六は、このようなチェーン化の仕組みや諸関係を図解したもの

右七は、小売販売業界の九つの大グループについて、販売提携やグループ化の現状と将来の動向を明らかにしたもの

右八、九は、各百貨店やスーパーがグループ化を進めながら販売高を伸ばして成長してきたことを示すもの

右一〇は、大宮市の商圏やS・Cの実態に関する各論Ⅱの内容目次を示すもの

右一一ないし一七は、大宮市の商勢圏人口・世帯数の推移、大宮市産業別商店数等、規模別の商店数、大型店と小売店との比較、商店街の歩行量調査、大宮駅及び周辺駅の乗降者数、買物客の店舗別利用状況、消費支出の傾向、販売シェアの地域別割合などに関する統計資料を示すもの

右一八は、我国S・Cの所在数、売上高推移予想、業態別小売販売金額の推移予想、我国S・Cの所在状況S・Cが今後大都市から郊外都市へ、さらに地方都市へ進出していくことを予想している。テナントの入居条件―保証金は殆んどの場合S・Cの建設費から単純に割り出して算出し、その据置期間は五年ないし一〇年、返済期間は本件S・Cと同様据置後一〇年とするものが多いこと、さらに賃貸料は本件S・Cで採用されている固定家賃制が一般に行われているものであることを示すもの

右一九は、主要S・Cの入居条件を示すもの

右二〇は、大宮商圏の消費支出量が、昭和六〇年度時点で対四〇年度比8.77倍、対五〇年度比2.75倍と大幅に伸長し、S・Cなどの進出が予想されることを示すもの

右二一は、大宮市商圏の将来と再開発計画に関する各論Ⅲの目次を示すもの

右二二、二三は、大宮市商圏の人口、所得などの変化予測を示すもの

右二四は、大宮市、とくに大宮駅を中心として、市や民間デペロッパーによる再開発計画が種々実施、検討されていることを示すもの

右二五は、本件土地の開発案の一部として総面積一万三〇〇〇坪の駐車場と売場面積約五〇〇〇坪のS・Cの建設を示すもの

右二六は、本件土地の開発計画としてS・C、ホテル、サウナビレッジ、プール、コートなどの見込まれること及び今後計画を具体化するための手法を示すもの

3 乙第三号証の一の一ないし七について

右一は、作成年月及び作成者等を示す表紙であり、右二は内容目次を示すもの

右三は、本件土地における建築基準法による用途制限を示すもの

右四は、本件土地に給排水、ガス、電力等の施設を設置できる具体的条件を示すもの

右五は、大宮市の人口、商業動向、中心商業地区の販売シェアについて統計数字等を示したもの

右六は、大宮市の商業施設の分布状況を地図上に示したもの

右七は、大宮駅周辺の商業集積が大きいので、これと対抗するためには客層を引きつけられるだけの量的にも質的にも独自性をもつたS・Cでなければならないことなどを示すもの

4 乙第三号証の二の一ないし一一について

右一は、作成年月及び作成者を示す表紙であり、右二は内容目次を示すもの

右三は、大規模なレジャー施設を主要な開発案として提案し、他に流通施設、ショッピング施設、中高層住宅などの可能性を示したもの

右四は、ボーリング場、レストラン、ショッピングなどを含む大規模なレジャー施設(カタクラ キャロンワールド)の提案を、営業時間、レジャーの質的変化、収益性などの諸点から説明するもの

右五は、この計画を成功させる条件として営業計画、経費節減等六項目を示すもの

右六ないし一一は、右提案の事業収支、借入金返済計画、所要資金等についての試算を示したもの

5 乙第四号証の一の一ないし三について

右一は、作成年月及び作成者を示す表紙であり、右二は内容目次を示すもの

右三は、事業計画を立案するに際して期待運用利回りを求める算式を示すもの

6 乙第四号証の二の一ないし一二について

右一は、作成年月及び作成者を示す表紙であり、右二は内容目次を示すもの

右三は、事業主体、立地条件、社会動向の三つの視点から計画の基本方針を策定したことを示すもの

右四及び六は、首都圏及び大宮市周辺の人口動態、右五は、大宮市周辺の市街化区域等の区分状況、右七は、大宮市周辺の商業集積の分布、右八は、本件土地周辺の施設分布を示したもの

右九は、社会動向の変化と計画との関係で考慮すべきものを図解したもの

右一〇ないし一二は、開発のメイン・テーマとしてアクティブ・レジャーと称するレジャー施設を、またサブ・テーマとして住居、商業、娯楽など多くの業種をリストアップしてそれらの段階的な設置計画を図解したもの

7 乙第五号証の一、二について

右一は、作成者を示す表紙であり、右二は、スポーツレジャー施設とS・Cなどの開発計画見取図を示すもの(本文書には目次はない)

8 乙第六号証の一の一ないし五について

右一は、作成年月日及び作成者を示す表紙であり、右二は、「本計画書」が五部構成になつていること、右三は、そのうち「(1)跡地利用計画基礎研究」の部分の細目次を示すもの

右四は、本件土地の所在地、面積等を示してその立地条件を明らかにしたうえで、大型S・C、集合住宅群、レジャー施設の各案を提起し、そのうちS・Cは購買力がいまだ不足しており、また集合住宅群は公共施設に対する負担が大きく採算的に不利であるとしてレジャー施設案が最適と考えられることを示すもの

右五は、参考資料として大型S・Cの計算事例を示したもの

9 乙第六号証の二の一ないし七について

右一は、作成者を示す表紙であり、右二は、内容目次と計画案を作成するまでに予測、調査、検討、スケッチなどのプロセスを経ることを示したもの

右三は、レジャー施設を建設するという開発案に従つて作成された本件土地利用の配置を図示したもの

右四ないし七は、それぞれ、首都圏の所得額分布、商品販売分布、周辺交通量、レジャー・レクリエーションのため利用される首都圏の交通手段の調査表を示すもの

10 乙第七号証の一ないし四について

右一は、作成年月及び作成者を示す表紙であり、右二は、内容目次と、投資効果が最もよく、周辺地域の経済開発を促し、かつ片倉工業の企業イメージの高揚を図ることに計画立案の目的があることを示すもの

右三は、レジャー事業を提案し、その開発の指針及び開発、運営、演出などのシステムを示すもの

右四は、提案されたレジャー施設案の事業収支計画を示すもの

11 乙第八号証の二の一ないし五について

右一は、作成年月日及び作成者を示す表紙であり、右二は、内容目次を示すもの

右三は、大宮市が、経済・商業的性格を有する都市であり、首都圏の中で新副都心的役割を果すこと、周辺都市との交流のかなめにあつて今後交通事情もよくなること、その商圏の範囲は東北本線、高崎線にそつて扇状に形成されていることなどを示すもの

右四は、「都市計画等による環境の変化」の項目のもとに、本件土地の利用構想として、コミュニティ住区やビジネスセンター、商業施設、レジャー施設が考えられるがそのいずれにも弱点があること、大宮市等の都市再開発計画案や国鉄操作場の移転問題がありこれらが本件土地の利用計画に与える影響は大きいことを指摘するもの、また「総合商店街の特性」の項のもとに、本件土地に商業施設を開発する場合は大宮駅前周辺の商店街が有力な競合関係に立つので、その規模や取扱商品の特徴につき調査した結果を示すもの

右五は、商業施設を計画した場合に営業ベースから想定される各種商業施設の売場面積と売上高及び部門別、店舗形態別の売上高と占拠率をそれぞれ表示するもの

12 乙第九号証の三の一ないし一一について

右一は、作成年月及び作成者を示す表紙

右二は、まえがきであつて、本件土地の開発計画は、実現の可能性の高い、包括的総合的なものでなければならないことを示すもの

右三は、一枚目が内容目次、二枚目以降は、事業実施までの企画作業が、基本方針、基本構想、基本計画、実施計画の手順をふむべきこと、また本件土地の立地条件、社会動向や将来性、採算性などの事業主体側の要請をふまえた基本方針の理念及び施策の内容及び基本構想として提唱する商業、文化、レジャー施設等の複合開発型事業につき具体的に各業種ごとの採否可能性の検討などを示すもの

右四は、事業実施上の諸問題として、立地条件の克服のほか中高層建築物、開発行為、大規模小売店舗に関する公的制限との調整や周辺住民への利益の還元などに十分な配慮を払うべきことを指摘するもの

右五は、商業施設を設定した場合の来店者数、販売額の推定を示すもの

右六は、各地のS・Cの実例を各種の指標から分折し、また大宮市とその周辺都市及び類似都市との経済指標の比較を表示するもの

右七ないし一一は、物販店舗や文化教室、賃貸住宅、ゴルフセンターなど各業種の採算性の検討及び住宅展示場の収入、モール(遊歩道)の収支などを示すもの

であることが認識される。

また、これらの書証は、乙第二号証の一及び乙第八号証の一とあいまつて、片倉工業において広くこれらの資料を蒐集検討したことを立証するものである。

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